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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)51号 判決 1999年9月29日

住所<省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

三木俊博

右訴訟復代理人弁護士

向来俊彦

東京都中央区<以下省略>

被告

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

澤辺朝雄

主文

一  被告は、原告に対し、二二八万九九六一円及びこれに対する平成一〇年二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一一五〇万三〇九五円及びこれに対する平成一〇年二月一〇日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告従業員の勧誘によって行った新株引受権証券(以下「ワラント」という。)の取引により損失を受けたことにつき、被告の従業員の右勧誘行為に違法があったとして民法七一五条に基づき、又は、被告従業員の右勧誘行為が被告の会社ぐるみの組織的違法行為であるとして民法七〇九条に基づき、被告に対して損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 原告は、昭和一五年生まれの男性で、高校卒業後、個人で「a」の商号で宝飾品の販売業を営む者であり、昭和六三年一〇月ころには既に神栄石野証券株式会社(以下「石野証券」という。)において証券取引をしており、被告とは、平成七年五月から被告ハーバーランド支店において証券取引をするようになった。

(二) 被告は、有価証券の売買、その媒介、取次、代理、引受、売出、募集等を目的とし、右事項について大蔵大臣から免許を受けた株式会社である。

2  原告のワラント取引

原告は、原告の担当であった被告従業員B(以下「B」という。)からワラント取引の勧誘を受け、平成七年九月一二日から平成八年六月一七日までの間に別表1買付欄のとおり、六回大和ハウス工業外貨建ワラント(以下「大和WR」という。)、四回品川燃料外貨建ワラント(以下「品川WR」という。)、一回文化シャッター外貨建ワラント(「文化WR」という。)、四回大同特殊鋼外貨建ワラント(以下「大同WR」という。)、一回住友シチックス外貨建ワラント(以下「住友WR」という。)、一回昭和産業外貨建ワラント(以下「昭和WR」という。)、二回日本碍子外貨建ワラント(以下「碍子WR」という。)、一回カスミ外貨建ワラント(以下「カスミWR」という。)、六回南海電鉄外貨建ワラント(以下「南海WR」という。)、二回ニッショー外貨建ワラント(以下「ニッショーWR」という。)、三回日本国土開発外貨建ワラント(以下「国土WR」という。)、二回コスモ石油外貨建ワラント(以下「コスモWR」という。)、三回京浜急行電鉄外貨建ワラント(以下「京急WR」という。)、一回ダイワラクダ工業外貨建ワラント(以下「ラクダWR」という。)、一回中外製薬外貨建ワラント(以下「中外WR」という。)の合計一五銘柄、延べ二二銘柄のワラント(以下「本件各ワラント」という。)を購入し、また、同表売付欄のとおりその一部を売却した(以下、右各ワラント売買を併せて「本件各ワラント取引」という。)が、右購入したワラントのうちラクダWR及び中外WRについては、権利行使も売却もすることなく各権利行使期限を徒過した。

二  争点

本件各ワラント取引について、被告従業員の勧誘行為に違法があり、被告が民法七一五条又は七〇九条によりその損害賠償責任を負うか。

(原告の主張)

1 外貨建ワラント取引の危険性

外貨建ワラント取引には、価格変動が大きい、価格形成過程が不透明である、権利行使期間が存在している、為替リスクがある、権利内容が複雑・不明確であるなどの危険性がある。

2 被告ないし被告従業員であるBの勧誘行為の違法性

(一) 証券取引法四条、一三条違反

本件各ワラントは、形式的にはユーロ市場(英国ロンドン)で発行されたものであるが、その全部ないし殆どが直ちに日本国内で消化されているだけでなく、当初からその旨企図されており、実質的には日本国で募集発行されたものである。これは、証券取引法四条(大蔵大臣宛届出)、一三条(目論見書の作成)という規制をユーロ市場発行という形式を借りて潜脱するもので、その発行が違法であるのみならず、その販売もまた同法違反を承継する違法な行為である。

(二) 公序良俗違反

ワラント、特に外貨建ワラントは、その危険性に照らして、およそ一般投資家には不向きな欠陥商品であり、本件各ワラント取引を原告のような一般投資家に対し積極的に勧誘したことは、公序良俗に反する。

(三) 適合性原則違反

(1) 証券会社は、顧客に対して誠実公正義務を負っており、顧客が能力、経験、資力等において当該取引に適合するか否かを慎重に審査した上で、顧客に適合する取引のみを勧誘すべき義務を負う(適合性原則。大蔵省証券局通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」《昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号、以下、同通達を「投資者本位通達」という。》等)。そして、ワラント取引につき適合性が認められるのは、独自の情報収集能力や経験、リスクを負担できる資金力を有するプロの投資家及び機関投資家が自発的に取引を行う場合に限られ、一般投資家にはおよそ適合性はない。

(2) 本件各ワラントの不適格性

Bが原告に勧誘した本件各ワラントは、別表2のとおり、その殆どが、単価一〇ポイント以下、マイナスパリティー、権利行使残期間二年未満のワラントであった。単価が一〇ポイント以下のワラントは、株価が権利行使価格を大きく下回っていることからプレミアムが極めて高く、そのために株価に対する反応が鈍くてギアリング効果が働かないことから、基本的に投資対象としては短期的にも中期的にも最も不向きなものである。また、勧誘時点で株価が権利行使価格を下回っている(株価が権利行使価格とワラント購入価格の合計額を下回っている場合を含む。)いわゆるマイナスパリティーの場合は、将来、株価が相当の率で上昇し、権利行使価格を上回る相当の蓋然性がなければ、当該ワラントに対する投資は無意味であり、投資資金全部を失う虞が強く、特段の事情のない限り、これを一般投資家に勧誘することは不適当である。また、権利行使残期間が少ないワラントほど値が付きにくく、特に権利行使残期間が二年を切り株価が権利行使価格を下回っている場合には、取引が少なくなり、投資対象として不適格である。

さらに、文化WRは、「○○会」なる仕手集団が介入し、その株価操作をしていた銘柄であり、ラクダWRも、その株式売買に仕手集団が介入していた銘柄であり、一般投資家にその取引を勧誘するのは極めて高い危険に曝すもので不適当である。

(3) 原告は、被告において別表3のとおりの証券取引をしているが、その多くはBが持ち込み推奨したものを購入したまでであって、どれが仕手株かも知らないものであり、ワラント取引については従前全く経験がなかったのであるから、そのようなワラント取引の初心者である原告にワラント取引を勧誘することは適合性の原則に反するというべきである。

(4) 仮に原告が多少危険度の高い証券投資を志向していたとしても、右のように投資対象として不適格な本件各ワラントに原告の証券資産の殆どを投資するということは常軌を逸したもので、原告の投資意向に適合したものとはいえず、これを知りつつ原告に本件各ワラント取引を勧誘したことは適合性原則に反する。

(四) 説明義務違反

(1) 証券会社は、証券取引の専門家として顧客に対して誠実公正義務を負い、ワラント取引の危険性・非周知性・難解性に照らして、顧客が自主的に同取引を行うか否かを判断することができるよう、ワラント取引の知識・経験を有しない顧客に対して、同取引の仕組み、特徴及びそれから帰結される同取引の危険性とその範囲・程度を的確かつ分かり易く説明して理解させるべき注意義務を負う。

さらに、本件では、Bが取引を勧誘した本件各ワラントの殆どが非常に危険なワラントであることは前記のとおりであるから、Bは、ワラント取引についての一般的な説明の他に、本件各ワラントの危険性についても的確かつ分かり易く説明して原告に理解させるべき義務を負う。

(2) ところが、Bは、原告に対し、ワラント取引の勧誘をした際に、ワラントが新株を引き受ける権利であるとの基本的性格を説明せず、また、その権利行使期限を徒過した場合には新株引受権が消滅するだけでなく経済的価値も同時に消滅することを説明せず、ワラントの価格は、株価に連動するが、株式の二、三倍の割合で変動し、その意味でリスクもあるが、魅力も大きい、為替変動にも影響されるが、その程度は殆ど考慮しなくてもよい程度である等と説明したもので、ワラント取引の仕組み、特徴、危険性を正確かつ分かり易く説明して原告の十分な理解を得ることしなかった上、本件各ワラントの前記の危険性についても説明しなかった。

(五) 助言義務違反

(1) 原告は、ワラント取引の初心者であり、専門家である被告及びBの勧誘を信頼依存して本件各ワラント取引を継続していたものであり、また、ワラント取引においては、その投機性の高さから売却の好機を捉えることが重要であったから、Bないし被告は、原告に対し、適切な時機に既に保有しているワラントを売却するよう助言し、場合によっては、早期の損切りで損失の拡大を回避するよう助言すべき義務を負っていた。

(2) のみならず、原告は、ワラント取引の初心者で、本件各ワラントは前記のとおり非常に危険なものであったにもかかわらず、Bの説明義務違反のために右危険性を全く理解しておらず、そのため、その投資判断を誤っていたが、そのことはBも気付いていたから、被告ないしBは、かかる具体的状況下では、原告が不測の損害を被らないよう、原告の誤解を積極的に解くべく適切な助言をすべき義務を信義則上負っていた。

(3) しかるに、Bないし被告は、別表1番号11のカスミWR、同16・19の各京急WR、同17・18の各ラクダWR、同20の中外WRについては、その売却を勧誘することもなく、却って、Bは、右各ワラントの値下がりを心配した原告が善後策・対処策を問い質したのに対し、値下がりしても急反騰することもあるので、それを待った方がよい等と勧めて原告にそれらの保有を継続させ、うち各ラクダWR、中外WRについては最後には各権利行使期限を徒過させた。

(4) 仮に、右カスミWRについて、Bが電話で原告にその問題点を説明しようと申し出たところ、却って原告から怒られたという事実があったとしても、それは原告の無知無理解に起因することは明らかであったから、Bは、電話ではなく、直接原告に面談し、その売却に関して原告の再考を促すべきであったのであり、それをしなかった以上、助言義務を尽くしたとはいえない。

3 被告の責任原因

Bは、被告の従業員であり、同人の前記違法な勧誘行為は、被告の事業の執行につきされたものであるから、被告は、原告に対し、民法七一五条により使用者責任を負うのみならず、被告とBの一連一体の違法な勧誘行為として、民法七〇九条により不法行為責任を負う。

4 損害額

(一) 実損害 一〇四六万三〇九五円

原告は、被告ないしBの右違法な勧誘行為により行った本件各ワラント取引の結果、差引一〇四六万三〇九五円の損失を被った。

(二) 弁護士費用 一〇四万円

(三) 合計 一一五〇万三〇九五円

(被告の主張)

1 外貨建ワラント取引の危険性について

(一) ワラント取引を含め有価商品取引は予測不能の相場の動きにより価格変動を来す商品を対象とするものであり、いわゆる自己責任の原則が支配する取引である。有価証券相場は、不透明な諸々の要因により醸成される売気配と買気配に応じて変動するのであり、ワラントのみが特に他の有価証券と質的に異なるものではない。ワラント取引については、平成二年二月から業者間取引を普通の業者間取引とは別に一日二回組織的に行われ、同年九月二五日より業者間取引原則として日本相互証券に集中して行われるようになり、右業者間取引でワラントの取引価格が形成されることになってワラント市場が整備された。また、外貨建ワラントについては、一日二回組織的に行われる業者間取引における取引価格(ユーロドル建ワラントの気配値)が平成元年五月一日より日本証券業協会から発表され、さらに平成二年九月二五日からは、日本相互証券に集中された業者間取引の取引時間中いつでもリアルタイムでその中値が一般に公開されるようになり、その詳細な条件は会社四季報に登載されるなど情報も公開されている。

(二) ワラントのリスクは、主に権利失効リスク(ワラントの権利行使期限を徒過すると投資金額がゼロになるというリスク)と価格変動リスク(株価に比較して大きい価格変動を生じるリスク)である。

(三) ワラントは、社債や株式と同様商法により法制化された商品であり、その危険性のみを過度に強調すべきではなく、ワラントが株式信用取引や商品先物取引に比べて少ない資金とリスク(リスクは投資額の限度に止まる。)でそれらと同程度の投資効率を期待できるハイリターン商品であることに留意すべきである。

(四) 外貨建ワラントの場合、為替相場による影響を受けるが、為替変動は対外取引では常に随伴するものであるし、その変動も毎日報道され、権利行使の際の為替レートは発行時に予め固定されているため、権利行使価格、引受株数が為替変動で左右されることはない。

2 証券取引法四条・一三条違反について

外貨建ワラントは、その発行地の法律に則って発行されたものであり、これをさらに日本国の証券取引法の規定を履践せしめるべき理由はなく、その適法性に欠けるところはない。適法に発行された外貨建ワラントが近時のあらゆる部門における汎世界的取引傾向により、日本国内で取引対象とされることは当然の現象であり、殊更日本国内で消化されることを企図したものではない。

3 公序良俗違反・適法性原則違反について

(一) ワラントの価格形成過程が他の証券と特に異なるものではなく、その券面が専門英語で記載されていてもこれを読解することは投資家がみずから行うべきであるし、その情報も公開されており、法制化された商品であることは前記のとおりであり、これを一般投資家に勧誘することが直ちに公序良俗違反ないし適合性原則違反であるとはいえない。

(二) 原告は、宝飾店を経営する者であり、相場により日々不断に値動きする宝石貴金属を日常取り扱っている。そして、原告は、昭和六三年ころから長い証券取引経験を有し、日常証券取引をしている仲間と情報交換をし、頻繁に証券会社に出入りして株式の研究をしており、石野証券においてはリスクの高い信用取引を行い、日本碍子の株式(以下「日本碍子株」という。)の現物取引に加えて同株を信用取引により買い建てるというハイリスク・ハイリターンな手法をとっていた。原告は、被告においても、別表3のとおり、平成七年五月一〇日以降同年九月までの間に一七〇〇万円を上回る資金を投入しては頻繁に証券取引を行い、その取引性向も、安定株を中長期的に保有するよりも、短期的売買により利益を収めようとするもので、次第に値動きの激しい店頭株(長谷川香料、日鉄セミコンダクター、日光堂、第一興商、ソフトバンク、アイ・エム・アイ、サニックス、アーク、タイテック、ウッドランド、ミヤチテクノスの各株式)や仕手株を取引対象とし、さらに新規公開株(長谷川香料、第一興商、ベネッセ・コーポレーション、アイ・エム・アイ、サニックス、ミヤチテクノスの各株式)の競争入札申込みをするなど、より大きいリスクの下により大きいリターンを狙うという手法をとり、Bに対しても、値動きの激しい商品に興味があることを明らかにしていた。このように、原告は、一般投資家と異なり、証券取引に精通し、豊富な資金を駆使してハイリスク・ハイリターンの取引に強い意欲を持っていたものであり、原告にワラント取引を勧誘したとしても適合性原則に違反するものではない。

4 説明義務違反について

(一) 反対売買による利益を意図して行われる証券取引は一般の売買と異なり不透明な多くの要素により変動する相場によりその損益が左右される本来的性質を有するものであって、説明の対象として馴染まない。そして、それ故に証券取引における対象商品の選定は投資者みずからの判断と責任においてされるべきものであり、そのための情報は投資者みずからが一次的に調査しなければならず、他者に説明義務を負わせることができないものである。証券会社は、投資者が取引対象商品の情報を提供することはあるが、それはサービスとしてであって、投資者に対してその情報を提供すべき法的義務を負うものではない。

(二) 仮に、被告が、ワラント取引の勧誘に際して、顧客に対して説明義務を負うとしても、Bは、以下のとおり、ワラント及び同取引の仕組み、特性、危険性を詳細に説明しており、原告がワラント及び同取引を十分に理解して本件各ワラント取引を行ったことは以下の経過に照らして明らかである。

(1) Bは、平成七年九月七日ないし八日、当時割安といわれていた大和WRを原告に案内すべく、神戸駅地下街の飲食店で原告に面会し、ワラントの価格表、大和ハウス工業の株価のチャート、同社の業績資料等を示しながら、以下のとおり、約一時間にわたり説明し同ワラントの買付を勧誘した。

① まず、ワラント及び同取引について、予め定められた期間内に予め定められた価格をもって発行会社の新株を引き受ける権利が付加された社債である新株引受権付社債の社債部分と新株引受権部分とが分離してそれぞれ独立の取引の対象となっており、後者がワラントと呼ばれており、ワラント取引は、新株引受権という権利を売買するものであること、新株を引き受ける権利は予め定められた期間(権利行使期間)内に限って行使でき、この期間が経過すると右権利は消滅し、ワラントは無価値になること、新株引受権を行使して新株を引き受けるには予め定められた価格(権利行使価格)を支払わねばならないこと、ワラントの価格は、理論価値と時間的価値から成り立っていること、当該ワラントの発行会社の株価が権利行使価格を上回っているときは、市場で当該会社の株式を買い付けるより権利行使する方が安価に同株式を取得できるからそこにワラントの価値が存することになり、これを理論価値ということ、ワラントは、株価の将来における動向に対する期待感からも価格が構成され、これを時間的価値といい、したがって、ワラントの権利行使価格が株価を下回っていて理論価値がない場合でも、時間的価値により価格が生まれる場合があること、ワラントの値動きは、株価の動きの数倍の大きさで上下すること、外貨建ワラントは、為替相場の影響を受けること、ワラント価格は、額面に対するパーセンテージを示すポイントで表示され、外貨建ワラントの額面は五千ドルであって、これにポイント及び為替を乗ずると、そのワラントの邦貨での価格を算出できることを説明した。

② 当時、ワラントについては、新聞、雑誌等に宣伝されており、原告もこれらの記事によりワラントのリスクについて承知していた様子で、Bに対し、同人のいうワラントとは、世上、紙屑になったといわれている商品のことかと確認した。

③ これに対し、Bは、ワラントの価値がゼロになるのは、権利行使価格が株価より安い状態で権利行使期間を経過した場合であり、権利行使期間が残存している場合は、そこに時間的価値が生ずる可能性があること、殆どのワラントは、権利行使期間は発行時より四年程度の期間が定められており、信用取引の決済期限と比較してかなり長いので、その間の値動きを観察しながら対処できる旨回答した。

④ 原告は、さらに理論価値がゼロであるにもかかわらず値が付くことについて説明を求め、Bは、将来株価が上昇する期待に投資家が投資することにより値が付くのであり、その期待の強弱により値動きが発生し、その値動きを利用して転売することにより利益を獲得すべく取引が行われることを具体的数値を示しながら説明した。

⑤ Bは、さらに大和WRの権利行使期限、権利行使価格、その時点での株価及びワラント価格、外貨建ワラントであることを告げ、大和ハウス工業の株式が割安感があること、同社が安定した企業であること、相場全体として比較的落ち着いた状況にあること等を原告に説明して、大和WRの買付を勧誘した。

(2) Bは、原告が大和WRの買付発注の意向を示したことから、ワラント取引の確認書、外国証券取引口座設定約諾書(以下「約諾書」という。)の差入れが必要であると説明し、平成七年九月一一日、喫茶店で原告と面談し、「国内新株引受権証券(国内ワラント)取引説明書、外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙二の1と同じもの、以下「本件説明書」という。)を原告に交付し、本件説明書を見開きながら先に行ったワラント及び同取引についての説明を確認する形で説明を行い、本件説明書の内容を確認の上、原告の責任と判断においてワラント取引を行うのであれば、本件説明書の末尾に綴り込まれている「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(以下「確認書」という。)用紙に署名捺印の上差し入れることになっている旨告げたところ、原告は、直ちに約諾書と共に右確認書用紙に署名捺印し、本件説明書から切り離してBに交付した。

(3) Bは、平成七年九月一二日、原告に対し、改めて大和WRの権利行使期限、権利行使価格を知らせた上、その時点での大和ハウス工業の株価、ワラント価格を連絡して買付注文を確認したところ、原告は、一〇〇ワラントを単価七・〇〇ポイントで買い付けた。この買付直後、大和WRが値を上げたので、原告は、さらに五〇ワラントを単価七・七五ポイントで買い増した。

(4) その後、原告は、別表1のとおり、本件各ワラントの買付、売付を繰り返したが、被告は、平成七年一〇月末日以降三か月毎の各月末現在における原告保有ワラントの買付価格、時価評価額、評価損益及び権利行使期限を記載し、かつ、その裏面にワラント及び同取引の説明を記載した「ワラント時価評価のお知らせ」と題する書面(乙五の1ないし8、以下、まとめて「お知らせ」という。)を原告に送付しており、原告は、右お知らせにより、その保有ワラントに大幅な評価損が発生しており、その額は日を追って増大し、平成八年一〇月末以降はその保有ワラントの全てに買付金額の九割以上の評価損が生じていることを知り、ワラント及び同取引の仕組み、特性、リスク等を確認していた。しかるに、原告は、平成七年一一月一六日、平成八年一一月二七日及び平成九年五月二八日の各時点において、それぞれその当時において保有するワラントを原告が買い付け、被告に預託中であることを承認する旨の回答書(乙六の1ないし3、以下、まとめて「回答書」という。)に署名捺印して被告に差し入れた。

(5) 原告は、平成七年一〇月三一日時点で別表1番号1・2の各大和WR及び同3の品川WRに大幅な評価損を生じていることを知り、ワラントのハイリスク性を現実に体験していながら、同年一一月以降も同表買付欄のとおりワラントを買い付けた。

(三) 原告は、権利行使残期間が二年未満のワラントが特に危険なものであると主張するが、ワラントのリスクが権利行使期限まで二年を切った時点で突如として質的変化を起こすことはなく、そのようなワラントでも値を上げた例は数多く存する上、Bは、ワラントは権利行使残期間が二年以下となったときは値が付きにくくなり危険であると説明し、種々のワラントを案内する都度、当該ワラントの発行日、権利行使期限、権利行使期限までの残期間、実質価値ないし理論価値、乖離率を告知しており、権利行使価格が株価を下回っているときは理論価値はゼロであることは説明した。しかし、原告は、比較的高値で買い付けたカスミWR(別表1番号11)が値を下げて評価損を生じ、同年九月一八日に低価格で買い付けて同年一二月八日に売却した品川WR(同番号3)が売却後急騰したことから、高ポイントのワラントに嫌気がさし、Bに対し、高価格のワラントは下落したときは大きく下落し、少々値上がりしても利益率が低いが、低価格のワラントは多くの銘柄を買い付けることができ、そのうち一銘柄でも当たれば莫大な利益を上げることができるとして低価格のワラントを狙えと指示した。原告の買い付けたワラントがマイナスパリティの権利行使残期間の短いものが多いのはこのような原告の指示による。

5 助言義務違反について

(一) 証券取引の対象となる商品は、予測不能の不透明な無数の要因により不断に変動する相場によってその価格が形成されるものであり、何人もその将来における価格を予知することはできない。したがって、原告の主張する助言義務は、不可能事を義務として強いるものでかかる義務が成り立つ余地はない。

仮に、将来の値動きの予測が不可能であるにもかかわらず、敢えてその処置についての助言をしなければならないとすれば、証券会社の行う助言は、その任意の意見、観測に止まるものであって、顧客がみずからの意見を決定するための参考資料としての位置付けられるべきものであり、法的義務として捉え得るものではない。

また、将来の値動きを確知し得ないにもかかわらず、顧客の保有する証券の処置について助言を行うことは、断定的判断の提供に限りなく近づくことになり、断定的判断の提供による勧誘行為を禁止する証券取引法の趣旨に反する。

(二) また、Bは、以下のとおり、原告に対して適切な助言を行っており、原告は、その助言を容れることなくワラントの保有を継続した結果、損失を招いたのであり、助言義務違反にはあたらない。

(1) 平成七年一二月一四日に買い付けたカスミWRは、同月一八日ころ、価格が購入価額より二、三ポイント下落し、同社の株価も低下し始めたので、Bは、原告に右事実を告げ、カスミWRはさらに下落する危険があるから損切りするよう勧めた。しかし、原告は、暫く様子をみるとして売却しなかった。その後、カスミWRは、平成八年三月二六日ころにはBID価格で四ポイント台まで値を下げたが、同年四月に入り、八ポイント台まで値を戻した。Bは、カスミWRが購入価額まで値を戻すのは困難と思われるから売却するよう再び勧めたが、原告は、損失を出してまで売却したくないとしてこれに応じなかった。

(2) 平成八年五月初旬、カスミWRは七ポイント台、京急WRは二ポイント台、ラクダWRは一ポイント台、中外WRは一ポイント台まで値を下げたが、原告は、これらを売却する意向を示さなかった。そこで、Bは、原告に対し、権利行使残期間が短くなるほど値が戻ることは困難になる旨説明したが、原告は、株価が上がれば、ワラントの値も戻ってくる可能性があると反論し、売却に応じなかった。そこで、Bは、さらに右各ワラントの一部でも売却することを勧めたが、原告は、売却した翌営業日から急騰した品川WRの例を引き、売却後急騰するかも知れないといって右勧めに従わなかった。

(3) 原告は、平成七年一一月一日に大和WRを単価五・二五ポイントで五〇ワラント、また、同月二七日に単価四・七五ポイントで一〇〇ワラントナンピン買いしたところ、大和WRが原告の思惑どおりに値を戻し、同年一二月一四日に単価五・七五ポイントで一〇〇ワラント、同月一九日に単価六・〇〇ポイントで一〇〇ワラント、同月二二日に単価八・〇〇ポイントで一〇〇ワラントそれぞれ売却してトータルで利益を上げている。ニッショーWRは、買付後直ちに値下がりし、値が動かなくなったので、Bは、原告に売却を勧め、この場合は、原告がこれに従ったのであり、コスモWRは、原告が平成八年二月九日買付の中外WRの代金に充当するために売却したものである。

6 損害について

争う。

なお、本件各ワラント取引の差引損金は、一〇四四万九八〇五円である(益金四九四万七八五二円、損金一五三九万七六五七円)。

第三判断

一  ワラントの特質について

証拠(乙二の1、二二、二三の1ないし4、二四の1ないし19、二五の1ないし3)及び弁論の全趣旨(なお、参考資料として、川浜昇「ワラント勧誘における証券会社の説明義務」民商法雑誌第一一三巻第四・五号六三三頁、森田章「新株引受権証券と投資者保護」同志社法学四五巻一・二号一六九頁、津田和夫「わが国企業におけるワラント債の諸問題」証券経済一七九号四一頁、新保恵志「デリバティブ」中央公論社等)によれば、以下の事実を認めることができる。

1  ワラントは、昭和五六年商法改正により認められた新株引受権付社債のうち、分離型新株引受権社債(ワラント債)から分離された新株引受権ないしこれを表章する証券であって、その権利を行使して発行会社の株式を取得するための期間(権利行使期間)と価格(権利行使価格)が当初から定められている。

2  そのため、ワラント取引は、転換社債や株式の現物取引等と比べ、次のような特質・危険性を有している。

(一) 権利行使期間が定められていることからの制約

ワラントは、権利行使期間が定められており、その期間を経過してしまうと、その権利行使ができなくなって、ワラントは経済的に無価値となる(但し、その場合に被る損失は、当該ワラントの購入代金額に止まる。)。のみならず、ワラントの発行会社の株価が権利行使価格を下回っているとき(株価が権利行使価格とワラント購入価格の合計額を下回っている場合を含む。以下同じ。)に新株引受権を行使することは経済的合理性がないから、株価が権利行使価格を下回っているようなワラントは、権利行使残期間が短くなると、その間の株価上昇期待分が少なくなるため評価が下がって取引されにくくなり、権利行使期間満了前でも無価値になることもある。わが国で取引されている国内企業のワラントは権利行使期間が四年と比較的短いものが大部分を占めるが、株価が権利行使価格を下回り、かつ、権利行使残期間が二年を切るようになった銘柄は、取引される割合が大きく低下する傾向がある。

(二) 価格変動の大きさと価格変動予測の困難性

ワラントの権利行使価格は、ワラント債発行の条件を決定する際の株価に一定割合を上乗せした価格で定められるが、そのようなワラントが投資の対象となるのは、将来、新株引受権の行使により時価より低い権利行使価格で株式を取得し、その株式を時価で売却して差益を取得することができる場合があることによるのであるから、ワラントの投資価値は、将来、株価が権利行使価格より値上がりする見通しを前提として成り立つことになる。

ワラントの理論価格(パリティ)は、株価と権利行使価格との差額に引き受けることができる株式数を乗じて得られるが、現実のワラントの市場価格は、この理論価格と、株価上昇の期待度や株価の変動性の大小、権利行使期間の長短、流通性の大小等の複雑な要因を内包する価格要素(プレミアム)とによって形成され変動する。しかも、外貨建ワラント取引については、証券取引所に上場されず、店頭市場における相対取引により取引されることもあって、一般の個人投資家がその価格形成過程を的確に把握することは容易ではない。

そして、ワラントの市場価格は、基本的にはワラント発行会社の株価に連動して変動するが、株式の値動きに比べてその数倍の幅で上下することがあるので(ギアリング効果)、株式投資より少額の投資でより大きな利益を得ることも、また、より大きな損失を受けることもある。もっとも、右の株価との連動性やギアリング効果は、理論価格については明確に認められるが、プレミアムについては必ずしも明確なものではない。したがって、特に、ワラント価格に占めるプレミアム部分が大きいワラントの値動きは、株価の変動と比べてより複雑になる傾向があり、その予測はさらに困難なものとなる。

また、外貨建ワラントの場合は、売却する際の価格が為替変動の影響を受けるため、右に述べた価格予測困難性に加え為替変動のリスクが加わることになる。

(三) わが国では、当初、証券業界の自主規制により、分離型ワラント債の国内取引を禁止していたが、昭和六〇年一一月一日から解禁され、昭和六一年一月一日からは、国内企業が発行した外貨建ワラント債の国内取引も解禁された。その後、円高や株価の上昇に合わせて、外貨建ワラント債の発行及び流通市場が急速に拡大したが、市場整備が遅れ、上記のような価格予測の困難さなどが指摘されるようになった。そこで、協会は、平成元年四月一九日の理事会決議(「外国新株引受権証券の店頭気配発表及び投資勧誘について」)により、協会を通じて、同年五月一日から流通性の高い銘柄の気配値を電子情報通信機関及び新聞等によって、随時投資家に提供することとし、ワラント取引勧誘の際には、顧客に説明書を交付し、顧客から「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」を徴求することとした。また、平成二年七月一八日の理事会決議(「外国新株引受権証券の売買、気配の発表等について」)により、同年九月二五日から、業者間取引は原則として日本相互証券株式会社に集中させ、売買の多い二〇〇強の主要銘柄の気配値を公表し、店頭での顧客との取引については業者間取引価格等を基準に一定の値幅制限を設けることとした。しかし、右の気配値はポイント数で表示され、これからワラント価格を算出するには複雑かつ専門的な計算が必要である。

二  本件各ワラント取引の経緯等について

1  前記争いのない事実及び証拠(甲一、一二ないし一四、一六、一七の1ないし15、一八の1ないし22、一九、二〇の1ないし15、二一、二二、二三の1・2、二四、二六の1ないし4、乙一の1ないし3、二の1・2、三、四、五の1ないし8、六の1ないし3、七ないし二二、二七ないし二九、証人B、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、本件各ワラント取引の経緯等について以下の事実を認めることができる。なお、これに反する原告本人の供述部分ないし陳述(甲一)部分は採用しない。

(一) 原告の証券取引経験等

(1) 原告は、昭和○年○月○日生まれの男性であり、高校卒業後、スポーツ店勤務、電気関係の仕事をした後、平成元年ころから平成八年末ころまで、「a」の商号で個人で宝石の卸及びブローカー業を営んでいた者である。

(2) 原告は、昭和六三年以前から証券取引をしており、被告との取引を始めるまで石野証券や大華証券と取引があった。原告は、石野証券では株式の現物取引の他に信用取引も行っており、昭和六三年一〇月二六日には、日本碍子株を信用取引により単価九五〇円で二千株買い建てる一方、現物で単価九五一円で千株、単価九五〇円で千株売却している。また、大華証券では約六〇〇万円の自己資金を投下して現物株式や転換社債等の証券取引をしていた。

(3) 原告は、知人から被告従業員Bを紹介され、平成七年五月一〇日から別表3のとおり被告で証券取引を行い、同年九月一二日までの間には、高島屋工作所、アルインコ、豊平製鋼、日本ベア・トレンド、長谷川香料、日鉄セミコンダクター、四国化成、東リ、日光堂、住友精密、日本配合飼料、第一興商及び青山商事の各銘柄の株式並びにマネーポートフォリオを購入し、また、その一部を売却しており、その延べ取引回数は四五回に及び、一回あたりの取引金額も殆どが百万円単位で、右期間内に買い付けた株式の保有期間は、長いもので約五か月、短いもので一日であり、その多くは一か月未満である。

右買い付けた株式のうち、長谷川香料、日鉄セミコンダクター、日光堂、第一興商の各株式は値動きの激しい所謂店頭株であり、また、原告は、新規公開株も競争入札に多数回申し込み、長谷川香料、第一興商の各株式は新規公開株を落札買付したものである。

(4) 平成七年九月当時、原告の被告における預かり資産は合計約一五〇〇万円位あった。

(二) 本件各ワラント取引の経緯等

(1) Bは、平成七年九月七日ないし八日ころ、JR神戸駅地下街のトンカツ屋で原告と面談し、大和ハウスの株式を購入することを勧誘したが、その際、同株式は大型株で値動きが少ないので、数量を多くするために信用取引をすることを勧め、被告における信用取引の開始基準(預かり資産二〇〇〇万円)を充たすために、預かり資産をあと五〇〇万円ほど足して欲しい旨述べた。これに対し、原告は、信用取引をしたい気持ちはあったが、手持ち資金がなかったので、預かり資産を足す気はないとして信用取引をすることは断った。そこで、Bは、元々はワラント取引を勧める積もりはなかったが、少ない資金でより多くの株式を買うことができ資金効率を上げるという趣旨から信用取引と同じようなものと考えて、当時割安とされていた大和WRの購入を勧めることにした。

原告は、ワラントと聞いて、紙屑ないしゼロになったやつかと質問し、これに対して、Bは、所持していた大和ハウスの株価のチャート(乙二八と同じもの)及びワラント価格表を示しながら、すぐゼロになる訳ではなく、大体期限が四年あり、それが経過したときにゼロになる、転換社債の転換価格と同様にワラントには権利行使価格があり、権利行使価格よりも株価が安い状態で期限がきたらゼロになる、ワラントは新株引受権といって、その権利行使価格で新株を買う権利であり、権利行使価格より株価が高くなっていると、その権利に実質的な価値が出、さらに権利行使期間が何年か残っている場合に将来株価が上がるという可能性にも価値がついて時間的価値が追加され、例えば、大和WRは、権利行使価格は一六四〇円で時価よりも高く理論的価値はゼロだが、それでもワラント価格がつくと説明した。これに対して、原告は、何故価値のないものに値がつくのかと質問し、Bは、これが時間的価値によるプレミアムであり、先で株価が上昇する可能性に皆が投資するから値段がつく、これがワラントの面白いところで、例えばワラントを五ポイントで三〇〇万円分買い、七ポイントで売ると四〇パーセント利益が出、五で買って三で売れば四〇パーセント損する訳だから、ハイリスク・ハイリターンである、また、時間的余裕があるから買ってすぐゼロになることはあり得ない、半値位のことは短期的には考えられるが、最後までずっと持っていて初めてゼロになるので、ある程度の損で逃げることができると説明した。また、原告が、大和ハウスは株価があまり動かないのではないかと質問したのに対し、Bは、そんなに動く必要はない、ワラントは株価が権利行使価格に近づくだけでも動くこともあるし、権利行使価格付近に来たとき、動かなかったワラントが動き出して一番面白いときである、株価でいえば一〇〇円か一五〇円上がれば十分二割位はワラントは上がる、株価が下がればその逆にもなるが、これだけ仕手株以外の株は落ちているときだからチャンスだと思う、急落する可能性は少ない株だからリスクも比較的小さいと思う、大和WRはドル建てであり、為替も関係するが、単価の動きの方がリスク・リターンの主たるところである旨説明し、また、ワラント取引のためには約諾書及び確認書を差し入れてもらう必要があることを説明した。

(2) 原告は、平成七年九月一一日、右手続のために、被告ハーバーランド支店を訪ね、Bは、同じ建物の喫茶店で原告と面談した。そこで、Bは、改めて、原告に対し、本件説明書を示しながら、ワラントについて、権利行使期間内に売却か権利行使しなかった場合には無価値になること、株式よりも価格の変動が大きいこと、大和WRはドル建てで為替の変動に左右されること、ワラント価格の算出式、相対取引であること等を説明した。原告は、これを受けて、大和WRを一〇〇ワラント購入することとにし、Bから交付を受けた約諾書用紙及び本件説明書に綴り込まれた確認書用紙にその場で署名押印してBに交付した。

本件説明書は、二つの説明書が一冊にまとめられており、そのうち外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書表紙の次の見開き左頁には「新株引受権証券(以下「ワラント」といいます。)とは、・・・一定期間内に一定の価格で一定数量の新株式を引き受ける(買い取る)ことができる権利を表示する有価証券のことをいい、具体的には、新株引受権付社債(社債発行の際に社債券に新株の引受権を付与した社債のことで、以下「ワラント債」といいます。)がその発行後に、ワラントと社債券(エクスワラント)に分離された場合のワラントの部分を指します。」、「ワラントという有価証券は、その性格や特徴が株式、債券、投資信託等の有価証券とは異なっております。ワラントは、少額の資金で多額の利益を得られることもある反面、投資金額の全額を失う危険性もある有価証券であります。したがって、ワラントに投資される場合には、その仕組みや危険性について十分な研究を行うとともに、ご自身の資力、投資経験及び投資目的に基づいて、ご自身の判断と責任において、危険性(投資リスク)を覚悟されたうえで決断していただかなければなりません。」と記載され、二頁及び三頁目は見開きで、ワラントのリスクについて分かり易く説明しており、二頁一行目には大きく太文字で「ワラントのリスクについて」と題し、「1 ワラントは期限付の商品であり、権利行使期間が終了してしまうと、その価値が無くなるという性格の有価証券です。」、「2 ワラントを買い付けた場合は、所定の権利行使期間内に①ワラントを売却するか、②新株引受権を行使してその発行会社の株式を引き受ける(買い取る)か(この場合、別途、新株式の買付代金の追加払込みが必要となることは当然です。)の選択を行わなければなりません。」、「3 ワラントの価格は株価の動きに影響を受けることは当然ですが、一般的にその変動率は株価の変動率に比べて大きくなる傾向があります。」、「4 外国新株引受権証券(省略)を売却する場合は、前記の留意点のほか、為替変動による影響を受けることがありますので、外国為替相場を考慮に入れる必要があります。」という部分には下線が施されている。

(3) Bは、平成七年九月一二日、原告に対し、電話で改めて大和WRの権利行使期限、権利行使価格、その時点での大和ハウス工業の株価、ワラント価格を連絡して買付注文を確認したところ、原告は、大和WR(権利行使期限平成九年一〇月三〇日)一〇〇ワラントを単価七・〇〇ポイントで買付注文した(別表1番号1)。この買付直後、大和WRがさらに値を上げたので、Bは、自分の予測どおりであると考えて、原告に五〇ワラント買い足すことを勧め、原告は、大和WRを単価七・七五ポイントで五〇ワラント買い増した(同2)。なお、大和WRは、右各時点で権利行使残期間は約二年一か月であり、理論価格はマイナスで、そのポイントはすべてプレミアムであった。

(4) 原告は、その後、Bの勧誘により、平成七年九月一八日に品川WR(権利行使期限平成九年九月二二日)を単価三・〇〇ポイントで五〇ワラント(別表1番号3)、平成七年九月二五日に文化WR(権利行使期限平成一〇年三月一〇日)を単価九・〇〇ポイントで五〇ワラント(同番号4)、平成七年一一月一日に住友WR(権利行使期限平成一一年一月二九日)を単価一五・七五ポイントで二五ワラント(同番号6)、平成七年一一月二日に大同WR(権利行使期限平成九年七月二二日)を単価四・二五ポイントで一〇〇ワラント(同番号7)、平成七年一一月二二日に昭和WR(権利行使期限平成九年九月一七日)を単価四・七五ポイントで一〇〇ワラント(同番号8)、平成七年一一月二八日に碍子WR(権利行使期限平成九年七月一五日)を単価五・二五ポイントで一〇〇ワラント(同番号10)それぞれ買い付けた。

右買い付けた各ワラントは、各買付時点で、住友WRを除いていずれも権利行使残期間は二年前後であり、理論価格もマイナスで、そのポイントはすべてプレミアムであった。

しかし、いずれも各買付後に値を上げて、平成七年一〇月三一日に右文化WRを単価九・五ポイントで売却して一四万一三一八円、同年一一月二日に右住友WRを単価二〇・五〇ポイントで売却して六一万〇五一四円、同月二七日に右大同WRを単価五・二五ポイントで売却して四三万〇〇二〇円、同年一二月八日に右品川WRを単価三・二五ポイントで売却して二万二三九八円、同月二六日に右買い付けた碍子WRを単価五・五〇ポイントで売却して九万三九一五円の各差益を得た。品川WRについては、売却後の同月二六日に急騰して単価二〇・〇〇ポイントをつけたため、売り急いだことを悔やしがっていた。

(5) 大和WRは、右買付後殆ど値上がりせず、平成七年一一月には却って値下がりしたが、Bは、大和WRを非常に評価していたため、値下がりしたところでこれをナンピン買いすることを原告に勧め、これにより、原告は、大和WRを、平成七年一一月一日に五・二五ポイントで五〇ワラント(別表1番号5)、同月二七日にも四・七五ポイントで一〇〇ワラント(同番号9)それぞれ買い増し、その後、大和WRが値を少し戻し始めたことから、同年一二月一四日に同番号9の大和WRを単価五・七五ポイントで、同月一九日に同番号2及び5の大和WRを単価六・〇〇ポイントで、同月二二日に同番号1の大和WRを単価八・〇〇ポイントでそれぞれ売却し、大和WRを通じては差引合計六四万五八三三円の差益を得た。

(6) Bは、平成七年一二月一三日ないし一四日ころ、カスミが出来高ができて株価が上がり始めたので、原告にカスミWRの購入を勧め、原告は、同月一四日、カスミWR(権利行使期限平成九年九月一六日)を単価一三・七五ポイントで五〇ワラント買い付けた(別表1番号11)。

カスミWRの権利行使価格は一〇五〇円でこれに一株あたりのワラント買付コストを加えた額は一一八八・七円であり(別紙計算書参照※甲一八の13)、右買付時点でのカスミの株価一一二〇円を上回っていた。

(7) 原告は、その後もBの勧誘により、平成七年一二月一五日に南海WR(権利行使期限平成九年一二月二日)を単価五・〇〇ポイントで一〇〇ワラント(同番号12)、平成七年一二月一九日にニッショーWR(権利行使期限平成九年一〇月八日)を単価八・五ポイントで五〇ワラント(同番号13)、平成七年一二月二二日に国土WR(権利行使期限平成九年六月一〇日)を単価四・七五ポイントで一〇〇ワラント(同番号14)、平成八年一月八日にコスモWR(権利行使期限平成一〇年三月三日)を単価四・二五ポイントで一〇〇ワラント(同番号15)、平成八年一月一〇日に京急WR(権利行使期限平成九年八月一二日)を単価五・〇〇ポイントで一〇〇ワラント(同番号16)、平成八年一月一一日にラクダWR(権利行使期限平成九年六月一〇日)を単価四・二五ポイントで一〇〇ワラント(同番号17)、平成八年一月一二日にも値上がりしたラクダWRを単価四・五〇ポイントで一〇〇ワラント(同番号18)、平成八年一月一六日に値下がりしていた京急WRを単価四・五〇ポイントで八〇ワラント(同番号19)それぞれ買い付けた。平成八年一月末時点で原告が保有していたワラントはすべて購入額を下回っていたが、原告は、さらに同年二月九日に中外WR(権利行使期限平成九年五月二七日)を単価三・五〇ポイントで一〇〇ワラント(同番号20)、平成八年三月二一日に大同WRを単価五・〇〇ポイントで九〇ワラント(同番号21)、平成八年四月八日に碍子WRを単価七・七五ポイントで六五ワラント(同番号22)それぞれ買い付けた。

右買い付けた各ワラントは、各買付時点で、権利行使残期間は、コスモWRを除いていずれも一年数か月であり、理論価格はいずれもマイナスないしゼロを僅かに上回る程度で、そのポイントの殆どがプレミアムであった。

右南海WR、国土WR、大同WR(別表1番号21)及び碍子WR(同番号22)は、いずれも買付後値を上げ、別表1の各売付欄のとおり、それぞれ売却して差益を得た。

一方、右ニッショーWRは、買付後値を下げ、平成八年一月一六日に単価七・〇〇ポイントで売却して三一万七二二五円の差損を生じ、また、コスモWRも値が上がらず、同年二月八日に単価四・二五ポイントで売却し手数料分三万八五七七円の差損を生じた。

(8) 右カスミWRは、買付後すぐにカスミ株の出来高が減り売買が少なくなってきたので、Bは、単価一一ポイント位の時点で、急落するかも知れないので売るように原告に勧めたが、原告は、買ったばかりであり損してまで売りたくないと言って売却せず、その後、さらに値を下げて一旦値を戻したころにも、売却するよう原告に勧めたが、原告は、大きい損になるとしてやはり売却せず、結局、平成九年九月一日に単価〇・〇一ポイントで売却して三五三万〇七八〇円の差損を生じた。

また、右各ラクダWR、各京急WR及び中外WRも買付後値を下げ、半値になったころ、原告は、Bに電話で値が戻る可能性があるかと尋ねた。これに対し、Bが、このまま行って権利行使期限が迫ってきたときに価格がなくなる可能性が出て来るので、全部とはいわないがいくらか売った方がよい旨答えたところ、原告は怒って、えらい損やないか、品川WRのように急騰する場合もあるから損してまで売りたくないと言って売却せず、結局、右各京急WRについては、平成九年七月二四日に単価〇・〇一ポイントで売却して合計四五二万五四八〇円の差損を生じ、右各ラクダWR及び中外WRについては権利行使も売却もしないまま各権利行使期限を徒過した。

(9) 被告は、平成七年一〇月末日以降三か月毎の各月末現在における原告保有ワラントの買付価格、時価評価額、評価損益及び権利行使期限を記載し、かつ、その裏面に、「(1) ワラントとは『一定期間(行使期間)内に、一定価格で、一定株数(省略)の新株式を購入(引受け)できる権利を有する証券』のことです。ワラントの取引は『新株引受権』と呼ばれる“権利”だけを売買するものです。」、「(4) 売却または権利行使の選択について ワラントには権利行使の期間が定められており、権利行使期間が終了した時にはその価値を失います。…期間内に売却もしない、権利行使もしない場合ワラント買付代金全額を失うことになります。」等とワラント及び同取引の説明を記載した「お知らせ」(乙五の1ないし8)を原告に送付していた。

(10) 原告は、平成七年一一月一六日、平成八年一一月二七日及び平成九年五月二八日の各時点において、それぞれその当時において保有するワラントを原告が買い付け、被告に預託中であることを承認する旨の回答書(乙六の1ないし3)に署名捺印して被告に差し入れた。

2  原告は、右認定に反し、Bは、本件各ワラント勧誘の際に、ワラントが新株を引き受ける権利であるとの基本的性格を説明せず、また、その権利行使期限を徒過した場合には新株引受権が消滅するだけでなく経済的価値も同時に消滅することを説明しなかった旨主張し、原告本人はこれに沿う供述ないし陳述をするが、他方、株券に替えられるという趣旨の説明を受け、また、ワラントは権利行使期間がなくなれば評価がゼロと理解しているとも供述しており、その供述は一貫せず、趣旨も明確でない上、原告は、ワラント価格が株価に連動して株価の二、三倍の割合で変動することや期限があることの説明を受けたことは認めているのであり、新株引受権との関連なくして唐突に右事柄のみを説明するというのは不自然である。また、原告は、被告からワラントについて右認定したような説明のある本件説明書や「お知らせ」の交付ないし送付を受けていたのである。それにもかかわらず、原告は、結局、権利行使期限を徒過するまで、被告ないしBに対する苦情として、本件ワラントが新株引受権を表章するものとは知らなかった、或いは、権利行使期限を徒過すると経済的に無価値になるとは知らなかった旨の苦情を述べたとは窺われないのであり、Bがワラントの基本的性格や権利行使期限を徒過すると経済的価値も消滅することについて説明しなかったとの原告本人の右供述ないし陳述部分と整合しない。他方、この点についての証人Bの証言ないし陳述は極めて具体的かつ自然であって信用することができ、これに反する原告本人の右供述ないし陳述部分は採用することはできない。

原告は、また、Bないし被告は、カスミWR、京急WR、ラクダWR及び中外WRについては、その売却を勧誘することもなく、却って、Bは、右各ワラントの値下がりを心配した原告が善後策・対処策を問い質したのに対し、値下がりしても急反騰することもあるので、それを待った方がよい等と勧めた旨主張し、原告本人はこれに沿う供述ないし陳述をする部分もあるが、それ自体必ずしも明確でなく、カスミWRについてBから売却を勧められたことは認める供述もしているのであり、一貫しない。他方、この点に関する証人Bの証言ないし陳述は極めて具体的であり信用することができ、これに反する原告の右供述ないし陳述部分は採用することができない。

三  本件各ワラント取引勧誘の違法性の有無について

1  証券取引法四条、一三条違反の主張について

原告は、本件各ワラントは、証券取引法四条(大蔵大臣宛届出)、一三条(目論見書の作成)という規制をユーロ市場発行という形式を借りて潜脱するもので、その発行が違法であるのみならず、その販売もまた同法違反を承継する違法な行為である旨主張するが、本件各ワラントがかかる目的で発行されたこと自体これを認めるに足りる証拠はないし、そもそもかかる取締法規違反が直ちに私法上の違法を来すということはできない。したがって、原告の右主張は理由がない。

2  公序良俗違反の主張について

ワラント、特に外貨建ワラントは、前記のようなハイリスクな商品であるが、他面、株式の現物取引に比べて、少額の投資で同等の投資効率を得ることができ、損失も投資金額に止まるという有利な面も有するのであり、商法によりその発行が認められており、一般投資家が外貨建ワラントを取得することを一般的に禁止する法令等も存しない。また、一般投資家がワラント取引の特質・危険性を理解することは、その知識・経験等に応じて可能であるから、被告ないしBがワラント取引を一般投資家を対象として勧誘すること自体が直ちに公序良俗に反するとまでいうことはできない。

3  適合性原則違反の主張について

(一) 先にみたようなワラントの特質、危険性に鑑みれば、被告は、顧客の意向、資力、投資経験、判断能力に照らして、ワラント取引の仕組みや危険性を十分理解できないような不適格者に対しては取引に参入させないよう配慮すべき義務があるというべきである。平成四年改正後の証券取引法五四条一項一号は、顧客の知識・経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘は行ってはならないとし、また、投資者本位通達は、投資者の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われるよう十分配慮すべきとし、協会もこれを承けて公正慣習規則九号においてこれを具体化する規定を設けている。

(二) 前記認定のとおり、原告は、昭和一五年生まれの男性で、本件各ワラント取引当時は個人で宝石の卸及びブローカー業を営んでおり、昭和六三年以前から証券取引をして信用取引の経験もあり、平成七年五月一〇日に被告において取引をするようになってからも同年九月一二日に本件各ワラント取引を開始するまでの僅か四か月間に延べ四五回も値動きの激しい店頭株や新規公開株を中心に現物株式等の取引を行い、その殆どは百万円単位であり、右期間内に買い付けた株式の多くは、一か月未満の保有期間であったものである。そして、本件各ワラント取引当時の預かり資産は合計約一五〇〇万円であったのである。そうすると、原告は、長い証券取引歴があり、従前、信用取引という投機的色彩の強い取引経験もあり、被告において証券取引を始めてからも積極的に証券取引を行い、その預かり資産は平成七年九月ころで約一五〇〇万円あり、事業家として経済についての知識も人並み以上にあったといえる。したがって、原告は、ワラント取引についても、その特性や危険性を理解する能力、経験を有していたと認めることができる。

また、原告は、本件各ワラント取引開始当時、被告の信用取引開始基準さえ許せば、株式の信用取引をする気持ちがあったものであり、Bが投資効率を上げるために信用取引の代わりにワラント取引を勧めたことが原告の投資意向に反していたとはいえない。

したがって、Bが原告にワラント取引を勧誘したことが適合性原則に違反するとはいえず、この点についての原告の主張は理由がない。

4  説明義務違反の主張について

(一) 一般に、証券取引においては、投資家自身が、諸般の事情を考慮し、みずからの責任において、当該取引の危険性の有無、程度、自己の有する資産等をも勘案して当該取引への参加を判断すべきであり、このことは、ワラント取引においても妥当する。しかし、証券会社は、証券取引に関する知識・経験や情報収集・分析能力において一般投資家に対し圧倒的優位にあるのであり、それゆえ一般の投資家も証券会社を信頼し、その提供する情報、推奨等に基づいて証券市場に参入し、証券取引を行っているのが現状である。そのため、右証券会社の提供する情報、助言等を信頼して証券取引を行う投資家の保護を図る必要があるところ、平成四年改正後の証券取引法四九条の二は、「証券会社…及び使用人は、顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない。」と規定し、また、同法五〇条一項一号(平成四年改正前の証券取引法も同じ)は、有価証券の取引等に関連し、有価証券の価格等が騰貴し又は下落することの断定的判断を提供して勧誘する行為を禁止し、さらに、同項六号(平成四年改正前の証券取引法においては同項五号)の規定をうけた「証券会社の健全性の準則等に関する省令」二条一号は、有価証券の取引等に関し「虚偽の表示をし又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為」を禁止している。また、協会は、同様の趣旨から、証券取引に関する自主規制として、「協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則」等を定めてその遵守を会員に義務付けているのである。

以上のことからすれば、証券会社及びその従業員は、投資家に対し証券取引を勧誘するにあたっては、投資家の職業、年齢、証券取引に関する知識、経験、資力等に応じて、当該証券取引による利益や危険性に関する的確な情報の提供や説明を行い、投資家がこれについての正しい理解を形成した上で、自主的な判断に基づいて当該取引を行うか否かを決することができるように配慮すべき信義則上の義務を負うものというべきである。そして、証券会社及びその従業員が右義務に違反して取引勧誘を行ったために投資家が損害を被ったときは不法行為責任を免れないものというべきである。

(二) そこで、以下、これを本件について検討する。

(1) 先にみたように、原告は、従前相当の証券取引経験と知識を有していたものであり、信用取引という投機性の強い取引の経験もあった。また、平成七年当時は、既にワラントの市場も公的に整備され始めて相当期間が経っており、ワラント取引について説明義務違反を問題とする訴訟の判決も多数出ており、新聞等にもその報道がされていたのである。しかしながら、ワラント及び同取引は先にみたように複雑な面があり、その具体的内容が一般に周知されているとまでは猶いえない状況であったことを考慮すれば、Bは、本件各ワラント取引を原告に勧誘するにあたり、まず、ワラント取引の一般的特色を、株式の現物取引との対比において、的確に説明しなければならなかったというべきである。

すなわち、ワラントは、一定期間内に一定価格で一定数の新株を購入できる権利を有する証券であること、その価格が権利行使価格を上回る見通しがある場合にのみ投資の意味があること、権利行使期間を徒過するとワラントの権利行使ができなくなり無価値になる上、権利行使期間経過前であっても、株価が権利行使価格を下回っているような場合には権利行使残期間が少なくなったワラントは売却が困難となること、さらに、ワラント価格は基本的には株価に連動して変動するものの、その変動幅は株価の変動幅と比べて格段に大きい場合がある(ギアリング効果)一方、ギアリング効果が明確に働くのは理論価格についてであって、プレミアムについては必ずしも働かない(その意味でハイリターンとはいえないことがある)ことについて、原告の理解を得るに十分な説明をすべきであった。また、その上で、Bが推奨する具体的な銘柄について、その権利行使期間と権利行使価格を告げ、さらに、プレミアム部分が大きく、ギヤリング効果が必ずしも期待できない銘柄であるような場合には、その具体的特質について明確な説明をすることが求められていたというべきである。

(2) Bの説明について

① 前記認定したところによれば、Bは、大和WR購入を勧誘する際、ワラントの特質、危険性につき一応の説明をしているが、ワラント価格について、時間的余裕があるから買ってすぐゼロになることはあり得ず、半値位のことは短期的には考えられるが、最後までずっと持っていて初めてゼロになるので、ある程度の損で逃げることができる、これだけ仕手株以外の株は落ちているときだからチャンスだと思う、急落する可能性は少ない株だからリスクも比較的小さい旨説明している。しかしながら、先にみたとおり、権利行使期間経過前でも株価が権利行使価格を下回っているような場合には権利行使残期間が少なくなったワラントは売却が困難となるのであり、しかも、大和WRは、その勧誘時点で権利行使残期間が二年余りであった上、理論価格はゼロでギアリング効果を必ずしも期待できず、その価格変動は株価の変動に比べて複雑で予想が困難な銘柄であったのであり、右説明は、このような危険性を認識させないものであったといえ(そもそもBにおいて、この点の理解が十分ではなかったものと窺われる。)、原告が自主的な投資判断に資するに十分な程度にワラントの複雑な仕組みや危険性について説明したものとは認め難い。

② その後も、Bは、権利行使残期間が二年を切り、理論価格もマイナスないしほぼゼロの銘柄の購入を原告に勧誘しているが、やはり右にみた危険性を認識させるような説明をしたとは認められない。

(三) 以上みたところによれば、Bは、原告に本件各ワラント取引の勧誘をするにあたって、証券会社の従業員として尽くすべき説明義務に違反し、その結果、原告はワラント取引の危険性に対する十分な理解を欠いたまま、本件各ワラント取引を行ったといえ、右勧誘行為は不法行為を構成するというべきである。

したがって、原告の主張するその余の違反行為を論ずるまでもなく(なお、前記認定したところによれば、Bにつき助言義務違反があったとまでいうことはできない。)、Bの本件各ワラント取引の勧誘は不法行為を構成するものであり、被告は、民法七一五条に基づき、右不法行為により原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

5  なお、原告は、本件各ワラント取引の勧誘について、会社ぐるみの組織的詐欺行為であると主張するが、被告が会社組織としてワラント取引につき違法な勧誘行為をしていたことを認めるに足りる証拠はない。

四  原告の損害について

1  原告に生じた損害

前記認定、判断したところによれば、原告は、Bの違法な勧誘により、本件各ワラントを購入したものであり、それにより原告が被った損害は、本件各ワラントの購入価額から、その取引により得た利益を控除した残額である一〇四四万九八〇五円とするのが相当である。(なお、右にみたとおり、Bは、カスミWR、ラクダWR、京急WR、中外WRの売却を勧めてはいるが、ワラントの前記危険性について改めて十分な説明をして原告に理解させたとまではいえないから、過失相殺の事情としてはともかく、Bの違法な勧誘行為と原告の右各ワラントについての損害との因果関係がなくなるものではない。)

2  過失相殺

原告は、一方、前記のとおり、信用取引の経験も含めて豊富な証券取引経験があったのであり、ワラント取引の危険性についても認識・理解するだけの能力を有していたのである。そして、Bから、本件各ワラント取引勧誘にあたってワラントの意味や特質について一応の説明を受けており、その直前には株式の現物取引においてすら損失を被っていたのだから、未知の商品について不慮の損失を被る危険性のあることを予測し、約定までにBにさらに詳細な説明を求めるなどの努力をすべきであったのに、これを怠り、安易に本件各ワラント取引を行ったものであり、また、カスミWR、ラクダWR、京急WR、中外WRについては、Bから売却するよう勧められながら、なお値上がりする可能性を期待して漫然これを放置し売却時機を逸してしまったものであって、前記損害の発生を招来し拡大させた点に相当の過失があったものといわざるを得ない。そして、前記認定した事実経過、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば、原告の過失割合を八割として、これを前記損害額から控除するのが相当というべきである。

したがって、右過失相殺後の原告の損害額は二〇八万九九六一円となる。

3  弁護士費用

本件認容額、本件事案の内容等を考慮すると、原告の本件訴訟に関する弁護士費用のうち、本件不法行為と相当因果関係にあるのは二〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

よって、原告の本訴請求は、被告に対して、民法七一五条に基づき損害金合計二二八万九九六一円及びこれに対する不法行為後である平成一〇年二月一〇日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 甲斐野正行)

<以下省略>

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